深刻なドライバー不足が続く中、外国人ドライバーの採用を検討する運送事業者は増えています。一方で、「どの国の人材を選ぶべきか」については、十分な比較がなされないまま判断されているケースも少なくありません。
筆者は過去に東南アジアに在住した経験があり、その後、アジア8カ国を実際に回り、現地の日本語学校、送出機関、自動車教習所、公道の運転状況を確認してきました。今回は、その実体験と自社での募集・育成経験を踏まえ、外国人ドライバー採用において重要となる視点を整理します。
【比較対象国】
ネパール、ベトナム、インドネシア、ミャンマー
【比較軸】
募集・将来性/宗教/運転レベル/日本語との相性

まず重要なのは、候補者が継続的に確保できるかどうかという点だと考えています。
ネパールは人口約3,000万人の国ですが、約800万人が国外に出稼ぎに出ているとされている、いわゆる出稼ぎ大国です。地理的に内陸国であり国土の7割が山岳地帯であることから自国内で産業を生み出しにくい構造を持っているため、今後も海外就労者が大きく減少する可能性は低いと考えられます。そのため、ドライバー適性のある候補者が比較的安定して募集できる可能性が高いです。
一方、ベトナムではドライバー志望者がほとんど集まらないというのが実情です。これは弊社が実際に募集を行った経験からの実感でもあります。
背景として、ベトナム国内で長距離ドライバーを行った場合、日本円換算で月収約15万円程度が得られると言われており、日本で働くことによる賃金面での魅力が薄れていることが一因だと考えています。
インドネシアは人口が多く、現時点では一定数の候補者が集まっています。ただし、経済発展と所得上昇が進めば、ベトナムと同様に将来的に人が集まりにくくなる可能性は否定できません。実際、現在は都市部ではなく、地方やジャワ島以外から候補者を集める動きが目立っています。これは、下記表の1人あたりのGDPを見ても明らかだと思います。
ミャンマーは将来性の判断が非常に難しいです。
現状では徴兵制の影響で若年男性の出国が制限され、スマートカード(海外就労に必要な身分証)の発行もほぼ止まっているため、就労が困難です。
これらを踏まえると、中長期的な募集の安定性という点ではネパールが最も適していると考えています。

外国人採用で見落とされがちですが、宗教は現場運営コストに直結します。
比較対象国の宗教は、主に以下です。
仏教/ヒンドゥー教/イスラム教
結論から言うと、イスラム教はドライバー職との相性が良くないと考えています。
ラマダン期間中は断食を行うため、空腹による集中力低下や体力低下が想定されます。重い荷物の積み下ろしや長時間運転が必要なドライバー職においてこれは無視できないリスクです。
また、厳格な信者の場合、1日5回の礼拝が必要となり、これをどう業務に組み込むかは日本企業側の負担になります。
さらに問題なのは、現地の日本語学校が「日本で働くなら宗教は我慢して」と指導しているケースが多いことです。
これは人権侵害であり、本来許されるべきではありません。
一方で、「イスラムでも礼拝しなくて大丈夫」「制限させている(制限できる人材を選別している)から問題ない」と堂々と説明する人材紹介会社が存在すること自体が大きな問題であり、それによって日本企業側も誤解をしているケースがあります。
仏教は言わずもがなですし、ヒンドゥー教も食事制限(牛肉不可)程度で、業務への支障はほぼありません。牛は「食べない」だけなので、「触る・運ぶ」ことは問題ありません。
日本の職場文化に合わせてもらう前提であれば、仕事に支障をきたしにくい宗教圏を選ぶべきだと考えています。

運転レベルについては、当社の比較ではネパールが最も高いという評価をしています。
ネパールは内陸国であり、物流の多くをトラック輸送に依存しています。そのため、トラック運転経験者が多いという特徴があります。また、中東へドライバーとして出稼ぎに行っていた人材も多く、実務経験から得た高い運転技術を持っています。
加えて、山道や未舗装路、狭路での運転経験が豊富である点も特徴です。こうした環境では高い集中力と技術が求められるため、結果として運転レベルの底上げにつながっています。
一方、インドネシアでは経験者が十分に多いとは言えません。未経験者を集め、現地で免許を取得させたうえで日本に送り出すケースも見られますが、ペーパードライバーを日本の現場で稼働させるための教育コストは高くなってしまうと考えています。
加えて、インドネシアはお金で免許が取得できてしまう実態がある国です。
これは「ペーパー以前」の問題であり、事故リスクを正しく認識する必要があります。

日本語習得の観点では、ミャンマー語話者は比較的習得が早い傾向があると感じています。理由として、文法構造や発音面で日本語との親和性が高い点が挙げられます。
ネパール語も、日本語と同じSOV型(主語・目的語・動詞)の語順であるため、文法理解の面では比較的適応しやすい言語です。
一方、ベトナム語は声調が強く、文法構造も日本語と異なるため、日本語習得に時間を要するケースが多いという印象があります。
以上の観点から、当社はネパール人ドライバーを主軸に選んでいます。
ただし、他国を選ぶこと自体を否定するものではありません。
重要なのは、
・募集の持続性
・宗教による現場負荷
・実務に耐えうる運転経験
・日本語習得の現実性
これらをきちんと比較・理解した上で判断することだと思っています。
実際には、こうした比較を十分に行わず、耳触りの良い説明だけで特定の国を推した営業をする業者も少なくありません。だからこそ、運送事業者の皆様には、「なぜその国なのか」を説明できるパートナーを選んでいただきたいと考えています。
外国人ドライバーの国選定や採用スキームについて、「将来を見据えた採用を相談したい」といったご相談がございましたら、現場の実態を踏まえご説明差し上げますので以下よりお気軽にお問い合わせください。